近況レポート
 

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パールハーバーを飛ぶ (H29.5.21)


1 ホノルル国際空港への気の抜けない着陸

ホノルル国際空港から西へ10分くらい飛ぶと以前はバーバースポイントと呼ばれていたカラエロア空港があります。そこでタッチアンドゴー訓練を行ってからホノルル国際空港へ帰るのがいつもの私のルートです。



パイパーアーチャーUからホノルル空港を望む


戦艦ミズーリーが右正横になったら右旋回して機首を東から東南に向けます。

すると目の前にはパールハーバーが大きく広がり、その向こうにはワイキキの街並みとダイアモンドヘッドが見えます。
左側には切り立った山並みが続いています。



ホノルル国際空港への着陸経路

高度を下げながらパールハーバーのフォード島に係留されている戦艦ミズーリーに向かい直上を通過します。

ホノルル国際空港には4本の滑走路があり混雑しているので気が抜けません。外の景色、高度、速度、方位、エンジン回転数などに注意しながら進みます。
しばらくすると高速道路に隣接したゴルフ場に差し掛かります。

そこで少し右旋回して着陸予定の方位40度を向いた2本の滑走路で右側の4R滑走路を左に見ながらそれと平行に飛びます。これがダウンウィンド航程です。高度1000フィートと方位220度を保ったまま、定期航空便用の大きな8L滑走路を斜めに横切ります。管制塔からしきりに高度の指定があります。800フィート以下を飛ぶと大型の定期航空便の離着陸の障害となるからです。

4R滑走路の末端を真横に見たところでエンジン回転数を落としフラップを10度に降ろして80ノットで降下して行きます。

すると今度はもうひとつの大きな8R滑走路に向かうタクシーウェイの大きな橋があるので、それを左旋回で回避しながらフラップを20度に降ろし70ノットで降下して行きます。

さらに、8R滑走路を左旋回で避けながら4R滑走路に向かいます。このようにベースとアプローチの航程で長方形を描けないので経験と勘が必要になります。何があっても70ノットは維持し続けます。


滑走路に正対するのは着陸寸前になりますが、ここから佳境に入ります。

フラップを30度に降ろし、滑走路のセンターにある4Rという数字に機首を向け、その数字を過ぎたら、エンジンを徐々にアイドルにし、頭が少し下がったら操縦桿を引いて上げ、下がったらまた上げる作業を続けます。

地上すれすれになり速度がなくなってきたところで操縦桿を引き続けながら待ちます。
そうしながらも横風に流されないように風上側の翼を下げ、さらに機首をセンターラインに正対させるよう両足で調整し続けます。

この時間がやけに長く感じるのです。やがて「ギュン」という音とともに主輪からに着地します。

場周経路


操縦桿を引いて前輪を地上から離したまま長い滑走路を高速で進み速やかに滑走路から出て小型機ハンガーに向かいます。

エンジンを止めてホッとしてはじめて背中が汗でぐっしょりと濡れているのに気が付きます。



ハワイではパイパーアーチャーUも操縦


2 ハワイのおいしい水

アマチュアパイロットは、お金があってもなかなか飛行機に乗る暇がない裕福層と私のようにセスナのガソリン代のために極貧生活を強いられていても時間がたっぷりある貧困層にはっきり分かれています。
ですから、私はキッチン付で安いホテルに長期滞在し、地元の食材を買って自炊で安くておいしい食生活をしながら、ゆっくりと生活を楽しみます。

ハワイでは水道水が飲めるので料理には最高です。水道水をたっぷり使ってソーメンを作って食べると飛び上るほど元気が出ます。
外出するときは水道水をペットボトルに入れて持ち歩き重宝しています。



オアフ島東海岸線から望む切り立った絶壁


ハワイの空を飛んでいると水の出来る様子が手に取るようにわかります。

いつも北東の風が吹いているので、離陸は4(L又はR)滑走路を使い、ほぼ正面から風を受けながら飛びたちます。正面に切り立った大きな山があるので山頂付近に機首を向けていれば良好な姿勢と速度で上昇できます。晴天であっても山頂付近にはいつも大きな雨雲がかかっています。

東南に変針しワイキキ市街を見ながら高速道路上を飛びダイアヤモンドヘッドを過ぎると海に出ます。そこから海岸線を伝って東に飛び、そして北西に向かうと左手に大きな山々が延々と続いて見えます。離陸した時に正面にあった山々の裏側に来ているのです。切り立った絶壁です。大きな木はなく地肌が露出しています。近づいて見ると滝の水が上昇気流で上方に噴き上げられています。山頂付近は雨雲で一面に覆われていますが、その上空は青空です。



オアフ島東海岸から望む雨雲


太平洋の湿気をたっぷりと含んだ北東からの貿易風が障害物の無い大海原で速度を速めて進み、突然、切り立った山にぶつかって強力な上昇気流となり、上空で冷やされて山間部に雨となって降ります。そのあとは、湿気のないさわやかな風がワイキキ方面にやさしく吹き込むという大自然の営みなのです。

私がよく飛ぶグアム、サイパン、セブ島では水で大変苦労します。ソーメンをおいしく作ることができないのです。そして常に食中毒で怯えるのです。


3 アマチュアパイロットの楽園ハワイ

ホノルル国際空港を飛び立って西に向かうとすぐにカラエロア空港が見えます。そしてその向こうにはハワイ唯一の工場である石油コンビナートが海まで広がっています。
カラエロア空港4L滑走路を左に見てそれと平行に飛びダウンウィンド航程に入ります。滑走路の中央部に来たらエンジンを絞りフラップを下げます。

まもなく空港と工場の間に掘割が海まで走っているのが見えます。工場上空は飛行禁止区域です。
掘割に近づいたら左に旋回してその手前ぎりぎりを飛びます。そして140度旋回をして滑走路に向かいます。

通常は90度旋回なので140度旋回はかなり難しく感じます。
ここもホノルル国際空港と同じでベースとアプローチの航程で長方形を描けないので経験と勘が必要になるのです。

こんな着陸を余儀なくさせられるこの石油コンビナートはとてもありがたいのです。

一般的に、小さな島ではガソリンを輸入しているのでとても高価です。そこでハワイでは原油を本土から搬入し、ハワイでガソリンを生成することにしたのだそうです。これでガソリン価格が米国本土並みに安くなっています。おかげでセスナ1時間のチャーター料金が1.7万円程度と格安になっています。
ちなみに、日本では5万円、グアムは2.7万円、サイパンは2.7万円、セブ島は3万円です。

ハワイでは、思う存分のタッチアンドゴー訓練、冒険心を満たす他島へのクロスカントリー、自炊のおいしい食事、大自然の素晴らしい景色、華やいだ街を歩く楽しみなど、まさにアマチュアパイロットの楽園なのです。
ただ、危ないこともあります。盗難、ケガ、誘惑などです。ハワイ、グアム、サイパン、セブ島などの外国の観光地でフライトをする私にはそれらの地獄が待ち受けています。
全フライトが終わって気の緩んだ帰国前日が要注意です。くれぐれもご用心。危険と思っていた操縦中が一番安全だったのです。



ハワイのセスナ172SPは最新式で快適


4 急降下で着陸するデイリンハム飛行場

オアフ島の北西部にグライダーと小型機専用のデイリンハム飛行場があります。
ホノルル国際空港4(L又はR)滑走路から離陸して安全高度になったら左に旋回し北西に機首を向けます。すると目の前一面に畑が広がっています。豊富な水と広大な平地、まさに楽園といわれる所以です。

しばらく飛ぶとサーフィンで有名なノースショアーに来ます。海に出て機首を西に向けると断崖絶壁の山並みが島の西端まで続いているのが目に入ります。山のふもとはすぐ海になっていますが、その狭い場所に滑走路を見つける必要があるのです。



デイリンハム飛行場


ここは80度方向に向いた8滑走路に降りるのです。滑走路は一本だけですからLもRもありません。滑走路の手前半分はグライダー用になっているので、そこまでは高度600フィートを保ち、そこを過ぎてから急降下で着陸するようになっています。

滑走路が見えてきました。ダウンウィンドに入り滑走路の真ん中の8の数字が左正横に見えたところでパワーを絞りフラップを10度それから20度と降ろして70ノットで降下します。
滑走路の8の数字が左後方45度に見えたら左90度旋回をしてベース入り切り立った山に向かいます。高度600フィートになったところでパワーを入れて高度を維持します。

山が目の前に迫ってきてぶつかりそうに見えますが、じっと我慢してから左旋回でアプローチに入ります。高度は600フィートのままです。
滑走路の直上に来ましたが、着陸禁止のマークがあるので高度600フィートを保ってじっと我慢です。
間もなく急降下地点です。フラップを30度にして速度を65ノットに整えておきます。


はい、降下地点です。パワーをアイドルにして操縦を思い切り押し、滑走路の8の数字をめがけて急降下です。まっさかさまという感じです。速度計と滑走路の8の数字を交互に見ながら降下を続けます。滑走路の幅が極めて狭いので風の方向に機首を向けていないと滑走路から外れます。着地が近づいたら機首を滑走路に正対させ同時に風上側の翼を少し下げて風に流されないようにしておきながら操縦桿を引いて着陸します。操縦桿は左手一本で操作し、右手はスロットルレバーを握ったままにしておき着地寸前のパワーの微調整とフルパワーの着陸復航に備えています。

センターラインをまたぎスムースな着陸でした。すぐにフラップを上げてフルパワーとし滑走路を後にしました。
左90度旋回で滑走路から離れ、もう一度左90度旋回で西に向かいます。オアフ島西端の岬で機首を東南に向け西海岸線を下ります。
この辺に人家は見当たらなく大自然の中に囲まれます。海岸線に近寄ったり高度500フィートまで降下したりして鳥になったような気分で飛びます。



オアフ島西端の岬


街が出現し、しばらくすると元大関小錦の家が海岸線に見えます。緑の屋根でかなり大きな家です。西に面しているのでさぞかし夕日がきれいだと思います。険しい山を過ぎるとコホララグーンの隣に最近できたディーズニーリゾートが見えてきました。すばらしい場所に作ったものです。ハワイの大自然を十分に満喫できることでしょう。

さあ、石油コンビナートが見えてきました。その隣がカラエロア飛行場空港です。観光気分は一掃し、エンジン計器を確認し、シートベルトを締め直し、コンパスをマグネットコンパスに合わせ、タッチアンドゴーに備えます。3回丁寧に繰り返してからパールハーバーに向かい戦艦ミズーリー直上を通っていつもの着陸をしました。


カラエロア空港でタッチアンドゴー


5 フライト前夜と当日の朝の試練

ハンガーの前でプロペラが止まった時に初めてドーパミンとかセロトニンなどの幸せホルモンが体中を巡り、実に爽快な気分になります。

フライトの前夜は操縦マニュアルのおさらい、全飛行航程のイメージトレーニング、不時着操作の再確認、使用予定空港諸元の暗記などに加えて食べ過ぎ注意、夜遊び禁止などと体調管理にも気を配ります。生活が乱れるとタッチアンドゴーの3回目くらいに不整脈とめまいが来るからです。こんなことでピリピリしていて落ち着きません。

当日の朝はいつも不安感に見舞われて元気と食欲がなくなります。風が強くて椰子の葉が揺れている日、雲が垂れ込めていて椰子の葉が雨で濡れている日は症状が一層ひどくなります。重い気分の中でも洗顔、歯磨き、シャワーを済ませ日常生活に支障を来さないように自分に言い聞かせます。パンをジュースで無理矢理飲み込み、フライト中の空腹に備えるのです。それからサングラス、帽子、水、カメラ、お金などの携行品をチェックリストに従って準備します。

航空会社からの迎え便に乗るとやっと覚悟が出来て少し楽になります。そして、セスナのエンジン始動音と振動におどろいて頭の中が真っ白になり自分が誰だか分らなくなるころからやっと調子が出るのです。空中では失速回復訓練で落下中でも、不時着訓練で海面が目の前に迫って来てもどうして実に冷静なのです。


6 太平洋航空博物館で無我夢中

今日はフライトを早朝に終わらせてフォード島の太平洋航空博物館に行きます。
いつも空から見ていたので気になっていた所です。航空会社の送り便をホテルから博物館に変えてもらいました。

帰りの路線バス停を教えてもらい時刻表もしっかりとメモしました。
路線バスではとんでもないところに降ろされ、とんでもない目に遭うことが多いからです。
でもびっくりするほど安いのです。

本土側の入り口で入場券を買ってシャトルバスに乗り、本土とフォード島に架かる長い海上橋を渡ります。
フライト中にいつも見ていた橋なので、ちょっと感激です。お客さんは全員白人で若い人も多くいます。

戦艦ミズーリーのバス停でほとんどの人が降りてゆきました。次が太平洋航空博物館です。
オープンは2006年12月でけっこう新しいのです。真珠湾攻撃で損傷をまぬがれた格納庫を改修したものだそうです。広い館内です。入ると一番に零戦21型が現れました。スピンナー、恒速プロペラ、キャノピー、引っ込み足、空力的に洗練され尽くした機体など素晴らしいものですが、布張りの場所もあり紙飛行機ように弱々しくも見えました。



零式艦上戦闘機21型


その横には日本海軍の爆弾や魚雷が陳列されています。
爆弾はなかなか命中しないものだそうですが命中率はかなり高かったとのことでした。

真珠湾は浅いのでアメリカ海軍としては魚雷攻撃は想定外だったそうで魚雷が活躍したことに大きな脅威を感じたとのことです。
陳列された魚雷の尾部に木製の枠のようなものが装着されていましたが、それは空中で頭部を下げて入水しやすくしたものなのです。


日本海軍の爆弾と魚雷


次は、天井から吊り下げられたP−40戦闘機が目に入りました。見るからに流線型からほど遠い機体でセンスのない設計です。

太平洋戦争初期に零戦との格闘戦でバタバタと落とされたというのがよくわかります。
ただし、上空から忍び寄って一撃を浴びせ、あとは急降下で遁走する戦術を取るようになってからはかなり活躍できたようです。



P40戦闘機


びっくりしたのはF4F-3ワイルドキャットです。
想像を絶するような太い胴体、鋼鉄船と見間違えるような重量感、胴体に取り付けられた貧弱な脚などまともに検討されたとは思えない機体です。

メーカーはグラマンですがグラマン鉄工所と揶揄されていたそうです。
太平洋戦争初期に零戦の餌食になりましたが機体の頑強さからくる急降下性能や防弾性能などを生かして優位に立ちました。



F4F−3戦闘機ワイルドキャット


フライトシュミレータで飛んでみるとF4F-3は実に操縦の難しい機体でした。離着陸の際にエンジンやラダーを大きく使うとすぐにひっくり返ります。左右の車輪の間隔が小さすぎるのが原因です。空中で大きな操作をするとすぐ失速し、どんなにあがいても回復しません。飛行性能は最悪です。この機体は戦闘で失った数よりも航空機事故で失ったほうが多かったようです。その点零戦はとても操縦しやすく素晴らしい機体でした。

後ろを向くとSBDドーントレス急降下爆撃機がありました。そばまで行けるようになっているので飛行前点検の要領でじっくりと見学しました。いくら見ても非の打ち所のない飛行機だと思いました。頑丈そうで重量感はありますが、それを楽々と引っ張る1200馬力の強力なエンジン、それを軽やかに空に浮かせる大きな主翼、良好な直進性能をうかがわせる大きい水平尾翼と垂直尾翼、星型エンジンから尾部に至るまで完璧な流線型を保った胴体、ダイブブレーキを兼ねるようになっている穴空き式フラップなどが印象的でした。

全体のイメージは零戦によく似ています。ミッドウェー海戦においては日本機動部隊の主力4空母のうち赤城、加賀、蒼龍を同時に攻撃して撃沈し、残った飛龍も別に出撃した本機の部隊が撃沈して日本機動部隊の撃滅に貢献しました。

戦闘機にも対応できる能力を持ち、かなりの戦闘機を撃ち落としています。ガダルカナルで大空の侍の坂井三郎氏が撃たれて重傷を負ったのも本機の後部座席の機銃でした。

零戦の設計者の堀越二郎氏は講演で「零戦は私の本意の設計ではなかった。もっと大きなエンジンを使い大きな機体にしたかった」と述べておられます。もし同氏に設計を全面的に任せていたらSBDドーントレスのような戦闘機になっていたような気がします。



SBDドーントレス急降下爆撃機


もう一つの格納庫には太平洋戦争後の航空機が多数展示されていました。
朝日とともに入館したのですが気が付けばもう夕日になっています。無我夢中でした。ここは米軍基地なので最終バスに乗り遅れるとややこしいことになります。


7 東へ飛び続けるとモロカイ島

いつものようにホノルル空港を出発して高速道路上を飛びます。ダイアモンドヘッドを過ぎると大海原に出ます。
そこからはひたすら東に飛びます。旋回、スローフライト、失速回復などを繰りかえしながら飛びますが、訓練メニューが終わるたびに機首を東に向けます。

しばらくすると右手に島が見えてきます。ほとんどはげ山で民家も見当たりません。モロカイ島です。島の中央部に北側へ小さく突き出たカウラパパ半島があります。
その突端にカウラパパ飛行場があります。滑走路手前に小高い山があるので気持ちが悪く操縦桿を押しにくいのです。滑走路は短く800mしかありませんからオーバーランしたら絶壁から海に落ちます。ということで今回はタッチアンドゴーにしました。降りても小さなターミナルで菓子を売る自動販売機しかありませんし町もありません。

着地したらすぐにフラップを上げスロットルをいっぱいに押して早々に滑走路と断崖絶壁から離れ安全高度で機首を西に向けました。今度は観光に徹します。大海原、雲、島などをじっくりと見てハワイを満喫するのです。



オアフ島が見えてきました。カネオヘ・ベイ海兵隊航空基地を超え、東海岸線から北海岸線へ飛び、ノースショアーで左旋回をしてパールハーバーを目指し、そしてホノルル国際空港へと向かいます。



東海岸にあるカネオヘ・ベイ海兵隊航空基地


それではまたアロハ!

      松木


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